
新聞「思想運動」に掲載された朝鮮半島情勢の記事です。
激動の朝鮮半島情勢を学習しましょう!


(全文)
激動の朝鮮半島情勢と朝鮮社会主義建設の今
―朝鮮労働党中央委員会第8期第11回総会を手掛かりに―
以下の文章は、2025年2月15日に開催された「未来アジア学習会」で崔権一さんが行った講演内容を崔氏が加筆修正しまとめたものである。
共和国の戦略的路線
まず現在の共和国の戦略的路線の起点となった2019 年末以降の流れを大まかに見ていきます。
2019年2月の朝米首脳会談の決裂後その年の年末に朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会が開かれて『正面突破戦』が宣言されました。
『正面突破戦』とはなにか。端的に言えば米国(国連)の経済制裁の解除を待つのではなく自力更生で経済を発展させ制裁自体を無効化、無力化させる、という戦略です。
金正恩委員長は米国との交渉の過程で、米国の帝国主義的本質は変わらない、米国が朝鮮敵視政策を根本的に見直さない限りもう話すことはない、と言い切った。この『正面突破戦』に基づいて2021年初頭に開かれた朝鮮労働党第8回大会において主体的力量、内的動力の強化による国家建設プラン提示しました。
そしてその年の4月「社会主義強国建設15 年構想」を打ち出す。これは社会主義経済建設を徹底的に推し進め、今後15年内外ですべての人民の生活全般を決定的に押し上げる、という、という構想です。党大会の開催年に合わせて最初の 5 年で整備・補強戦略を完遂し、以後5年単位での3段階を経て目標達成を目指している。
そしてその年2021年の暮れに開かれた朝鮮労働党第8期第4回総会で社会主義全面的発展方針を打ちだします。
その後全世界を飲み込んだコロナ禍を戦い抜くために国境を封鎖し、ただ受動的に耐えるではなくこの状況を自立経済発展の好機と捉え整備・補強戦略を積極的に推し進めていきます。
2024年初頭に開かれた最高人民会議第14期10回会議ではこの間の闘いを総括し新たな政策として「地方発展 20×10 政策」を打ち出した。
これは朝鮮の200の市・郡の内、毎年 20 の市・郡をピックアップしその地方の特性に合った地産地消型の消費物資工場を建設し、10 年以内に全国の市・郡、すべての人民の生活レベルを引き上げることを目指すというダイナミックな政策です。
それと同時に軍事的抑止力強化政策を強力に推進して来ました。
共和国は過去、朝鮮戦争で廃墟にされた経験から抑止力を決定的に高めることで戦争を起させない力を持つ、という政策をとってきました。だからといって米国はじめ帝国主義による軍事的脅迫に対して一歩たりとも怯むことはない、侵略戦争には強烈なカウンターを食らわすということを常々宣言してきた。その朝鮮の姿勢と態勢が東アジアの『平和』を保障している、すなわち朝鮮半島で戦争が起きないのは、停戦協定が守られているからではなく、戦争が起きないレベルで米(韓)と共和国の軍事バランスがとられているからなんです。もちろん真の平和のためには帝国主義、資本主義そのものを根絶する他ないことはいうまでもありませんが。
今日の共和国の政策基調を一言でまとめると、主眼としては経済建設、特に地方経済の振興を目指しそれを担保するための国防力の強化だと言えます。
朝鮮労働党第8期第11回総会
去年末に開かれた朝鮮労働党第8期11回総会では2024 年の成果が総括され2025 年度国家建設の総体的方向が示されました。
それは一言で5 カ年計画を成功裏に完結するとともに、次の段階に入るための準備工程を実質的に推し進めること、と定められました。今年のスローガンは「2025年の偉大な勝利のために信念を持って果敢に闘おう!」 です。
そして今年の位置付けを『党8回大会で提示した課題と目標を達成するための最後の闘いの一年』としました。
総会報告で目を引いたのは昨年の7月の水害対応です。
平安北道と慈江道、両江道一帯が洪水被害に遭い、特に新義州市、義州郡では4,100余世帯の家屋と約3,000ヘクタールの農耕地はじめ公共施設、道路、鉄道が水没する大きな被害を受けました。この水害に対する党の対応が内外に大きく報道されました。
まず金正恩委員長が即刻現地に入り、水没した地域をゴムボートに乗って視察する、そしてテント生活の被災者を、膝を交えて激励する姿が全世界に配信され注目を浴びました。視察後、現地で党の重要会議が開かれました。党中央委員会第8期第22回政治局非常拡大会議です。この会議で、復旧対策が協議され即決しました。それによって子どもたちとその母親、負傷者と患者はじめ1万3,000人の被災者をピョンヤンに呼び寄せホテルと軍施設を開放し治療、療養、教育と保育、保養まで含めて生活全般を保障しました。もちろんすべて国家負担です。
かたや現地復旧作業を青年層に呼びかけたところ30万人が志願し、その中から3万人を選抜して現地に派遣、4カ月余りで1万5千世帯の現代的な住宅と託児所、幼稚園、学校、病院、診療所等を新たに建設し6,000世帯の住宅を補修、その他道路、鉄道、橋梁等が復旧しました。まさに共和国が掲げる『人民第一主義』が集中的に表れた事例です。
経済面では、人民経済発展の12重要目標をすべて達成したと報告されました。前年につぐ連続達成です。項目は以下の通りです。
①穀物 107% ②電力 101% ③石炭110% ④圧延鋼材127% ⑤非鉄金属106%
⑥窒素肥料103% ⑦セメント101% ⑧丸木 104% ⑨織物 101% ⑩水産物 101%
⑪住宅100% ⑫鉄道貨物輸送 108% すべて人民生活に直結する部門です。
報告では農業、建設、科学技術、教育、保健医療、文学、芸術、スポーツはじめ各部門においての成果が提示されますが、時間の関係上割愛します。
一つ、エピソードを紹介します。
去年8月、朝鮮労働党の機関紙『労働新聞』に『共和国の最高勲章を授与された労働者博士』という見出しの面白い記事が掲載されました。
リ・キチョルという63歳のある精米所の責任者なんですが、彼が10年間の研究の末に性能の高い精米機を開発した、という記事なんです。朝鮮では精米機を糠分離機と呼ぶんですが、名づけて『高性能糠分離機』! これを使うと精米後の米の比率を2%引き上げることができる。量にして年間5万トン分の増量が見込める。朝鮮全体の一日のコメ消費量が1万トンと言われているので全人民の5日分の米を確保した計算になる。
これはすごいことだ。共和国にはこんな人がごろごろいる。資本主主義の国ならばまず特許庁に駆け込むでしょうね。
そして先ほど紹介した『地方発展20×10政策』が初の完璧な実体をもたらす!
初年度ピックアップされた20の市・郡の工場建設目標を100%達成します。
今、その20の市・郡で竣工式のラッシュです。
ここでこの政策がなにを意味しているのか、ということをもう一度考えてみたいと思います。 首都圏に比べて地方の発展と人民生活が立ち遅れているからなんとかしなくてはならない、という切羽詰まった事情があることは事実です。しかしこの政策は朝鮮の社会主義建設の歴史において決定的に重要な意味を持っている。
それは冒頭で取りあげた社会主義強国建設15年構想に沿って、社会主義完全勝利を射程においた、戦略的な措置だ、ということなんです。
この『地方発展20×10政策』と、すでに打ち出されている農村革命綱領を有機的にリンクさせて推し進める事で、いわば旧社会から新たな社会としての社会主義へと向かう過渡期を終わらせるための重要な要件を満たす戦略、すなわち全社会の工業化による都市と農村、工業労働者と農業労働者の差異を解消し社会主義を完成させるための。極めて重要な政策だということです。
米帝国主義とその追随勢力の執拗な政治的、経済的、軍事的包囲、脅迫、圧迫を打ち破って社会主義建設を貫くことで、社会主義社会が人が人として生きるに値する社会なのだ、ということを世界に示すための闘いを今共和国は果敢に闘っている。
現実問題としてこの政策に対して疑問を持つ学者、知識人がいます。
コストパフォーマンスが悪いんじゃないのか、という見方です。
国の工業化においては工業地帯を設置して、日本で例えれば京浜工業地帯であるとか阪神工業地帯、北九州工業地帯を設置して工業プラントを集中させるというやりかたが一般的だと言うんですが、朝鮮では事情が異なる。まずインフラ整備が行き届いていない、ということがあります。まずインフラから、ということになると相当な時間とコストがかかる。そして重要なことは朝鮮では戦争が終わっていない、ということがあります。あくまでも休戦中なんです。戦争が起こって集中したプラントが破壊されればたちまち立ち行かなくなる、そのためにリスクを分散させる、という狙いもあると思われる。そして、ここは社会主義ならではの発想なんですが、プラントの集中による環境負荷を最大限に抑えるための方策という見方もできる。
いずれにしろ朝鮮が今置かれている現実的な条件と状況に基づいた政策だということを確認したい。そして、利潤追求や輸出主導型、輸出依存型経済ではないので、各地方で必要なだけ生産すればいい、社会主義特有の無駄のない経済モデルだと言えます。
報告では対外政策も提示されている。
まずは国際情勢認識を一言であらわしている。『自主勢力圏の成長と躍進が際立ち、覇権勢力の立場が急激に弱化・衰退』していると。
このような情勢に共和国がどう対応してきたのか。
『厳しい地域情勢と流動的な国際関係構図の変化に機敏かつ巧みに対応、わが国の主権をしっかり守り・・・重要な戦略的意義を持つ成果を収め、・・・公正な多極世界の建設を力強く牽引する代表的かつ強力な自主勢力としての国際的地位を確保した』と総括しています。
そして戦略的課題を提示するんですが、まずは対米政策の基調として『米国は反共を変わらない国是としている最も反動的な国家的実体』と規定します。続いて米日韓ブロックを『米・日・韓同盟が侵略的な核軍事ブロックとして膨張』した、としました。これは米日韓軍事ブロックが、核同盟としてのNATOと同レベルに達したという認識です。
この状況下、韓国のポジションについては『米国の徹底した反共前哨基地に転落』したと断定しています。
そして『最も反動的な国家的実体』としての米国に対峙し、展望的な国益と安全保障のために強力に実施すべき最強硬対米対応戦略が提示されました。ここで注目すべきポイントは、すでに共和国が米国を外交対象とは見ていないのではないか、というところにあると思います。
●朝鮮社会主義建設が持つ意味
共和国の社会主義建設が持つ意味を、私は大きな歴史的局面においてみることが重要だと考えています。もちろんそれは民族史的観点から見た場合、朝鮮に対する日本帝国主義の植民地支配の歴史の清算と米帝によって蹂躙されつづけてきた民族的自主性の完全な回復という重要な意味を持っています。
そして歴史的、国際的な観点から見れば20世紀末から現在まで続いている新自由主義的資本主義に対するオルタナティブとしての社会主義の可能性を可視化する、という重要な意味を持っています。そのことが朝米対決という形で現れている。なので朝米対決は、先ほど見たように、すでに政治的、軍事的対立としての国家間対立を超え出て、新自由主義的資本主義対社会主義という体制間対立の様相を呈している。
国際的には、米国を中心とする帝国主義陣営に対立する反米、反帝陣営ともいえる勢力が目にみえる形で形成されている、ブリックスしかりグローバルサウスしかり。しかしその反帝勢力が向かう方向は定かではない。共和国は明確にその方向性を社会主義の完全勝利に定め、自らその道を切り開いていると思う。私は共和国の社会主義建設が持つ意味をここに見出しています。
その文脈の中で、ロシアとの関係強化、朝ロ戦略的パートナシップ条約締結の持つ意味を見極めなければならないと思います。
私は前年に結ばれた朝ロ戦略的パートナーシップ条約の持つ意味を次の三つと見ているんですが一つには、2国間の全面的協力関係の形成、二つ目は朝鮮半島においての軍事バランスの形成です。米日韓3国ブロック対応ですね。そして反帝自主戦線の形成、すなわち公正な多極世界に向けての対抗軸の形成です。
ここでアメリカ人弁護士で人権擁護活動家のダン・コヴァリックの言葉を紹介します。
『歴史は容赦なく明確な教訓を与えてくれる。シリアの崩壊は、抵抗が最高潮に達したときではなく、アサドが西側諸国とその湾岸諸国との妥協を試みた時に起こった。この悲劇的なパターンはリビアの運命と重なる。カダフィ政権が崩壊したのは、反抗の年月の間ではなく、核計画を放棄し、西側諸国との和解を模索した後だった。これらの事例は、キッシンジャーが皮肉にも正確に述べた「アメリカの敵になることは危険だが、友人になることは致命的だ」という言葉を物語っている。』
『朝鮮の存続との対比は示唆的だ。西側諸国の激しい圧力にもかかわらず、朝鮮の妥協しない姿勢と核抑止力は効果的であることが証明されている。この厳しい現実は、帝国主義が依然として支配する世界では、力だけが真に尊重される言語であることを示唆している。西側諸国の外交的働きかけは、しばしば毒杯となり、救済ではなく破滅につながることが証明されている。』
世界の動きと日本
イラク戦争、アフガンからの撤退、リーマンショックと世界金融危機、G7の衰退、国内政治社会の分断、矛盾と対立の激化によって米国の政治、経済、軍事的衰退が著しい。 反面、BRICS、グローバルサウスの台頭による米国の覇権体制が揺らいでいる。この状況下で米国は軍事力による覇権の維持の方に振り切った。
ロシアの弱体化、中国包囲網を目論んで同盟国を糾合し政治的、経済的、軍事的緊張を激化させている。
その尻馬に乗り韓国、日本とも反動政権の維持と戦争体制構築に躍起になっている。
特に尹政権の『極度の反動化』は危険水位をはるかに超えでている。
あからさまな反共・反朝鮮路線を提唱し労働運動、市民運動を徹底的弾圧してきた。
歴史問題においては徹底した日本への妥協、反共史観への転換を図り野党の反発に対して戒厳令を宣布するという前代未聞の暴挙にでた。
先ほど取り上げた米日韓3国ブロックは、米国に引きずられているという側面ともう一つの面がある。それは日本と韓国が、米国に追随することでしか自らの支配体制を維持することができない、という側面です。
日本と韓国の政権は朝鮮戦争と分断体制によって正当化され根拠づけられている(来た)ということです。
さかのぼれば戦後米国の国際戦略において朝鮮の共産主義化を防ぐことが焦眉の課題にのぼり朝鮮戦争をへて分断体制が固定されました。いわゆる逆コースは米国の朝鮮戦争体制づくりの一環として仕組まれました。A級戦犯の復権、独占の復活と軍備復活が共産化防止の口実のもとに推し進められ戦後日本の政治体制の骨格が形作られました。 現政権とその背後に蠢く日本の反動支配層はその延長線上に位置します。その過程で形成された安保体制が無条件に正当化され憲法の上に君臨できるのもすべて朝鮮戦争と分断体制によっている、ということです。
安倍元首相がトランプ大統領に朝鮮戦争だけは終結させないでくれと懇願したのもそういう背景からでしょう。
韓国にしても、そもそも米国の軍政に〈親日派〉を全面起用し〈親日派〉が〈親米勢力〉にシフトして強固な支配層を形成、その勢力が朝鮮戦争と分断体制によって自らを正当化することで地盤を維持してきた。奴らにとって朝鮮戦争と分断体制は、まさに自らの存続基盤だといえる。
日本支配層も韓国反動保守も単に米国に従属しているわけではない、米国に追随して朝鮮戦争と分断体制を維持しながら自らの支配体制を強化し、米帝国主義の覇権体制が揺らぐなかでなんとか活路を見出そうとしている。ここに米日韓3国ブロックの必然性があると思います。
そして今、その基盤自体が崩れていっている!尹錫悦の戒厳令騒動はその表れですよね。
去年初頭の共和国による対南政策転換によって、二つの国家体制が提示された後、共和国は韓国との一切の交渉を断ち切りました。 今までもそういうことはあったが、今回は前提が全く違う、朝鮮半島には国家が二つあり、統一も目指さない、なので、今も続いている戦争の目的は消滅した、我々から侵攻することは絶対ない、なのでそっちも来るな、共和国のこのスタンスに苛立って、ユン大統領は平壌にドローンまでとばして挑発したが、共和国はそれに乗らなかった。韓国ではもうすでに『北の挑発と脅威』に対処する、という口実が通じなくなっています。
このまま二つの国家体制で戦争状態が解消(終戦と平和体制の構築)されれば、もう反動勢力存立の根拠と基盤が消滅していく、例えば、国家保安法(北の脅威を口実に設定された弾圧法)の存在理由がなくなる、そうなれば反動勢力が依って立つ法的基盤が消滅する。 そして真の民主化が実現し、それとともに自主化が促進されれば・・・後はご想像にお任せします。
おわりに
今、人類史は確実に新たな段階に差し掛かっています。それは覇権のない世界です。そのダイナミックな動きを、わが祖国 朝鮮民主主義人民共和国が主導している、ということを誇りに思います。そして我々在日朝鮮人運動に携わる活動家、同胞たちが、祖国朝鮮と歩調を合わせ、このダイナミックな世界の動きの中に運動をどう位置付けて展開していくべきか、ということが今問われていることを痛感します。このような問題意識を鮮明にして、運動と在日同胞コミュニティーを再構築していく作業が、求められている、そのためにも日本の進歩勢力をはじめ、帝国主義と人間の尊厳を蹂躙し生存を脅かすあらゆる反動と闘う諸勢力と深く連帯し共に闘う具体的な動きを作っていくことが切実に求められている、ということを最後に確認して終わります。

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いやぁ、勉強になるぜ!
今後の情報も要チェックだな!
